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2002年3月28日
第154回国会 衆議院 憲法調査会地方自治に関する調査小委員会

案件:地方自治に関する件

参考人:東京大学大学院法学政治学研究科教授 森田朗 氏   →意見陳述を見る


質疑内容   

今回は、森田朗東京大学大学院教授から、市町村合併の類型化について持論をお聞きしました。
 森田教授にも、前回の小委員会と同様、政令指定都市と府県の関係についてお尋ねしました。教授も、たとえば、政令市では府県議会議員は行政区で選出されるので全体を代表する議員がいない、など政令市と府県とで競合する問題点を指摘されました。政令市は府県から離脱していくのもひとつの選択肢、とのことでした。
 政令市が独立すると、問題は、政令市で働く公務員が府県内で政令市のことしか考えなくなり、地方を視野に入れた感覚が鈍ってしまうことです。このようなことを防ぐため、基礎自治体間での人事交流が大事だと主張しました。

会議録抜粋

○中村(哲)小委員

 民主党・無所属クラブの中村哲治でございます。

 先生にまずお伺いしたいことは、政令都市と府県との関係はこのままでいいのかということでございます。
 私は、地元が奈良県でございます。隣に大阪府がございます。大阪府の方とお話をしたときに、大阪市と大阪府の関係が非常に不幸だと思う、それは市民の方の意見ですが、そういう意見を聞いております。と申しますのは、結局、府がやるようなことを市ができる権限を持っておりますから、施設も何も大阪市の中に府のものも市のものもできてしまう。結局、有効利用がなかなか図れないというような話もありました。

 この政令市が大きな権限を持つことが本当に府県にとっていいことなのか、特にその府県のほかの地域の市町村にとっていいことなのかどうかということに関しては、もう一度考え直す時期に入っているのではないかと私は思うのですが、その点についての御意見をお聞かせください。

○森田参考人

 お答えいたします。

 政令市と府県の関係といいますのは、先ほど申し上げましたように、地方分権が進み、また政令市がふえてまいりますと、相当深刻な問題として浮上してくるのは間違いないと思います。現在でも、府県と政令市の間はかなり権限が競合するとか、あるいは、政令市の場合は御存じのとおり府県会議員の方が行政区で選ばれますので、全体として代表される方がいないとか、そうした選挙制度のあり方も、あるいは代表制度のあり方も含めましていろいろな問題点がたくさん残っているところでございます。

 かつては、政令市、特に旧六大市のうち東京を除きます五大市に関して言いますと、府県並みの権限を与えて府県から独立させるという話もございましたけれども、当時はそれでもまだ、大阪にしましても横浜にしても自律的な都市であったのかもしれませんけれども、今日では、今のお話もございましたけれども、大阪市の影響といいましょうか、その都市圏というのは大阪府を越えて広がっているわけでございまして、その中で政令市だけ自立をさせて県並みにするということになりますと、そのほかの部分がどういう扱いになるのかということについて大変難しい問題が生じてくるところではないかと思います。

 他方では、現在、二つ政令市を抱えております県が福岡県と神奈川県とございますけれども、神奈川県の場合について言いますと、人口の半分以上が横浜、川崎という政令市の中で住んでいらっしゃる。県会議員の方も過半数がそちらから選出されている。そういう形で、県が一体どうあるべきか、何をすべきなのかというのはかなり議論が出ているところでございますけれども、やはり地方分権あるいはそれぞれの都市の自律性ということを考えた場合には、少なくとも競合する部分については整理をする必要があるのではないかなと思っておりますし、その意味でいいますと、政令市は府県から出して都市というものを考えていくのも一つの選択肢ではないかなと思っております。

 しかし、その場合には、今度は、例えば政令市といいましても、川崎市なんかですとそれほど面積は広くありませんので、広域的な課題については県との間での調整の問題が出てくるわけでございまして、これはいずれも、地方制度の問題については、一つの方向で解決すればすべていいというものはないと思いますけれども、そのバランスをどうとるのかなというところが問題かと思いますけれども、私自身は、むしろ政令市というものは、ある意味で県から離脱していくというのも一つの選択肢としてあり得るのではないかなと考えております。

○中村(哲)小委員

 そのときに私が問題だと思うのは、先ほどおっしゃいましたように、人口は都市部へ集中をされております。人口はすべて都市部に集中する中で、都市の人間が、自分たちで県から独立する形で自治体をつくって、都市のことだけ考えてしまう構造ができてしまうことになる。これは、税財源を移譲することによって非常に問題が起きるんじゃないかなと私は思います。地方のある意味切り捨てになってしまうんじゃないか。

 今は都道府県の方から市町村に対して人事交流もあるようですが、基礎自治体同士の人事交流を私はすべきじゃないかと思っております。先生がおっしゃるように、政令市が府県から独立するような形になってしまうと、その都道府県の中にある政令都市で働く人間は都市のことだけを考えてしまう。そうすると、都市部へ人口が集中している構造にあって、都市部で働く公務員に全く地方の感覚というものが反映しないことになってしまうんじゃないか、私はこのように考えまして、むしろ都道府県というものは広域化していく。

 例えば、近畿の場合であれば、大阪市を中心とする経済圏はすべて広域化していく、その中で基礎自治体を考えていく、それは政令都市も市町村も同じことなんですが、そして、その基礎自治体同士の人事交流を進めていくということが大切なのじゃないかというふうに考えるんですけれども、それについての御意見をお聞かせください。

○森田参考人

 お答えいたします。

 都市が自立した場合にその都市のことだけ考えるのではないかという御意見ですけれども、これは、いずこもそういう問題はあろうかと思いますし、制度を変えることによってそこにいる人の意識をどの程度変えることができるのか、これはなかなか難しいところではないかと思います。

 そもそも政令指定都市の制度自体は、戦前からありました旧六大市を、東京を除いた五大市を県並みに扱うといいましょうか、県と同じぐらいの力を持った都市であるということで、それらの都市そのものは、その後につくられました札幌とか仙台とか福岡なんかもそうですけれども、その都市だけではなしに、その地域、ブロック圏におけるいわば中枢的な機能を果たすべき、そうした位置づけがされていたのではないかなと思っております。

 ところが、最近では、横浜、川崎、千葉もそうですし、恐らく今度できるさいたま市もそうだと思いますけれども、東京都市圏の拡大により、それらの政令市に関して言いますと、それ自体が、中核的な都市の象徴であるべき昼間人口と夜間人口の比でいいますと、夜間人口の方が大きくなっております。こういうことはどういうことかといいますと、東京都市圏の郊外的な位置づけになっているわけでございまして、そういう意味でいいますと、都市としての性格自体もかなり変わってきている。

 このようなことを考えますと、今もおっしゃいましたけれども、人事交流を初めとして、いろいろな形での情報交換であるとか交流、それによって調整を進めていく仕組みを考えていかざるを得ないのではないかなと思っております。

 他面におきましては、それらの都市の場合には、その都市内において完結するさまざまな仕事もあるわけでございまして、都道府県からいいますと、警察その他を除きましては、既にほとんどが政令市には移されている。

 そういう現状を考えますと、都市としての完結したものを合理的に行うにはどれぐらいがいいのか、あるいは外部との調整との関係をどのように考えるのか、そうしたことを考慮せざるを得ないわけでございまして、そうした観点から見たとき、私自身はやはり、都市はそれなりに自立して、自己完結的な形で行政を行っていく方が望ましい、そちらの可能性に傾斜しているといいますか、そちらの方を重視したいというふうに考えているというところでございます。

 以上でございます。

○中村(哲)小委員

 おっしゃることはわかるんですが、例えば私の選挙区であります生駒市、生駒郡などは、電車に乗って大阪市に通われている方がたくさんいらっしゃいます。そうしてくると、都市の機能としては生活圏からという考え方をすると、そこまで大阪市の範囲を拡大していってこそ成り立つ議論が先生の御理論ではないかと思うんですけれども、そこはどのようにお考えになっておられるでしょうか。

○森田参考人

 お答えいたします。

 先ほどちょっと触れなかったといいましょうか、言い忘れたところかもしれませんけれども、この議論をしていく場合には、当然のことながら現在の都道府県のあり方がいいのかどうかという話にもなってまいりまして、関西の大阪、奈良、和歌山に関していいますと、かつてからございますように、多分、都道府県そのものの単位が小さ過ぎるのではないかということになってくるのではないかと思います。

 今お話がございましたように、生駒市が大阪市の中に入ってしまっていいのではないかという考え方もあろうかと思いますけれども、やはり地理的にある程度の範囲というものはおのずから行政のサービスの質から決まってくるところだと思いますので、それはそれとして単位として残しながら、さらに大きな、例えば交通であるとか大規模な施設であるとかそうしたものについては広域的な対応をする必要があるということでございまして、その単位として都道府県が適切であるかどうかということにつきましては、今の御質問に対するお答えになろうかと思いますけれども、都道府県のあり方そのものを見直していくというのが筋ではないかな、かように考えます。

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