2001年11月29日
第153回国会 衆議院 憲法調査会

案件:日本国憲法に関する件(21世紀の日本のあるべき姿)

参考人:城西大学経済学部教授 畑尻剛 氏 →意見陳述を見る

[1]質疑内容   [2]会議録抜粋


[1] 質疑内容(20分)「憲法裁判所について」

憲法調査会とは、主に法案審議を行う委員会とは異なり、憲法のありかたについて広く議論を行うところです。この臨時国会では、憲法問題の専門家から意見をお聞きし、委員から質問をおこなう、という形でおもにすすめられています。

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「憲法裁判所について」
畑尻剛城西大教授から憲法裁判所についての意見をお聞きして、質疑を行いました。畑尻教授は、裁判所法を改正して、法律が憲法に反しないかどうか、判断するための専門の憲法裁判所をあらたに最高裁判所に設ける、ことを提案されています。現在の最高裁も憲法判断を行うことはできますが、違憲判断を下したのは4、5件だけです。

裁判は通常、地方裁判所、高等裁判所を経て最高裁に送られるので、判決が確定するのにとても時間がかかってしまいます。そこで、人権を迅速、適切に保障するために、憲法判断を憲法裁判所でまとめて行うことを主張されています。畑尻教授の提案は、人権侵害を受けた人を迅速に救済するのに今の裁判制度より有効だと考えたので、基本的に賛成の立場から質問を行いました。

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ハンセン病の国家賠償請求訴訟の熊本地方裁判所判決を例に、この憲法裁判所がどう関わるのか、お聞きしました。

熊本地方裁判所の裁判官は、国が「らい予防法」を廃止しないことが、ハンセン病患者の人権を侵害し違憲だと考えると、いったん裁判を休止して違憲か否か判断を仰ぐため、憲法裁判所に憲法判断の部分だけ移送決定をします。憲法裁判所で違憲判決が出ると、再び地方裁判所の裁判が始まり、損害賠償額の算定などを行うのです。実際は、この判決は、政府が上訴しなかったので確定しましたが、もし上訴すれば高等裁判所、最高裁判所と経由し確定までに相当の時間がかかってしまいます。

憲法裁判所が最高裁に設置されると、このように上訴があるかないかに関わらず地方裁判所の段階で憲法判断が確定する、このような意義があるとのことでした。

[2] 会議録抜粋

○中村(哲)委員

 こんにちは。民主党・無所属クラブの中山哲治でございます。
 先生のお話を伺いまして、正直、こういう方法もあったのだなと感動しております。今の憲法の枠内でこういう手法がとれるのであれば、積極的に立法化を検討していってもいいのではないかというぐらいまで、私はこの案を見て思いました。そういう立場を前提にして、お話をさせていただきたいと思います。

 まず、きょうの議論でまだ出てきていなかったのが、立法府の権限として憲法の解釈権があるということです。違憲審査という言葉だけ聞くと、裁判所が何でも判断していいというようなことを一般的には考えられがちですが、憲法学説上、憲法の解釈権は第一義的には国会にあるということになっていると思うのですけれども、その点のお考えをお聞かせください。

○畑尻参考人

 憲法学説でいきますと、憲法の最終的解釈権というのは、違憲立法審査権との関係でいえば、立法ではなくて裁判所ということになっております。

 もちろん、議会は、ある法律をつくる場合に、これは違憲な法律であると考えてつくるわけではございませんので、もちろん憲法の趣旨に沿ったものであるというふうな解釈をとりましてつくるわけでありますけれども、その考え方は、八十一条の違憲立法審査権を行使する裁判所によって、場合によっては否定されるということですので、一応、現在の制度からいきますと、最終的憲法解釈決定権というのは、むしろ裁判所、最高裁判所にあるという考え方が憲法学説では通説だと思われます。

○中村(哲)委員

 私が申したのは、最終的な判断というのではなくて、一番最初に考える、解釈する権限は立法府にあると。国民の代表者が選ばれる立法府にあるからこそ、合憲性の推定と言われるものがあるのではないかと思うのですけれども、その点についてのお考えをお聞かせください。

○畑尻参考人

 まさにそのとおりでありまして、議会が法律をつくる段階で、それが憲法に違反するかどうかという点について十分審議するわけですから、解釈権がまず立法府である議会にあることは、これは間違いございません。

○中村(哲)委員

 国民の代表者である国会議員が審議をしてつくる立法ですから、基本的には憲法には違反していないことだろう、そういうふうなことを前提として司法が審査しているのだ、これは国会議員は共通認識として持っておかないといけないと思うのですね。

 同僚議員と話していても、このことが余り認識されていないような気がします。例えば、集団的自衛権の行使の問題にしても、これは国会議員がまず一義的に考えなくてはいけない問題だということが余り議論されていないということもありまして、この点だけ確認させていただきたかったわけでございます。

 次に、この制度ができたときに、下級裁判官がどういうふうに判断していくかなということをイメージしながら、頭の中でシミュレーションしながら聞いていきたいと思います。

 この制度で、下級裁判所裁判官が判断するというときには、まず原告から、この状態は違憲じゃないですかということを聞かれて初めてできるわけですね。だから、まず原告が、違憲だということを判断してくださいと言われて、かつ、下級裁判所の裁判官が、これが違憲かどうかまず判断する、それで、これは違憲だと思ったら上告審というか最高裁の憲法部に申し立てをするというか、そういうふうにしていくという手続になるということでよろしいんですね。

○畑尻参考人

 うんと雑な言い方をしますと、現在、下級裁判所の裁判官が、例えばこの前の熊本のハンセン病訴訟の五月十一日の判決で、立法府の不作為の違憲性を述べておりますけれども、それと同じような形で、つまりこの手続にあっても、全くああいう形で違憲判断をするわけです。ただし、最終的に、判決の中でそれを違憲と言うんではなくて、それがいわゆる移送決定という形で最高裁判所に新しくつくられる専門部に持っていかれる、そういうことです。ですから、逆に言えば、それ以前の手続は、まさに下級裁判所の裁判官が自分で違憲判決を書くのと全く同じ。ただ、それが熊本地裁五月何日判決ということにはならないというだけの違いです。そのほかは全く同じように考えております。

○中村(哲)委員

 その例に引いて私も考えますと、移送決定、移送手続というのが公開されなくてはいけないんじゃないかなと思うんですが、その点はいかがでしょうか。

○畑尻参考人

 もちろん、移送決定は公開をされる必要があると思います。その点について憲法裁判所の例を挙げますと、そういう質問をある先生に、移送決定というのは、例えば日本で下級裁判所の違憲判決が出ますと新聞の一面を飾るということになるわけですけれども、そういう形で一般には取り上げられているんですかというふうに御質問したところ、いや、移送決定が多過ぎてニュースのソースにならない、ニュースバリューがないんだというふうにおっしゃいました。ですけれども、もちろん大きい事件の場合は当然に取り上げるということになると思います。

○中村(哲)委員

 ハンセン病の事件に引き直して考えますと、移送決定が公開されればそれだけで大きなインパクトを持つ決定になるんじゃないかと思うんですね。そして、その決定を受けて、今度は、最高裁の方がそれが違憲かどうかを判断して、また決定になるんでしょうか、それをまた公表する過程になる。それを受けて、今度は下級裁で、熊本地裁は判決を出す、こういうふうなプロセスになるわけですね。

○畑尻参考人

 まさにそのとおりでありまして、憲法問題について、違憲であるという主張を最高裁判所あるいは憲法裁判所に上げます。憲法裁判所はその問題についてだけ判断をしまして、例えば現行の規定が違憲だという判断が下りますと、その判断が、事件がとまっています熊本地裁に戻ってまいります。熊本地方裁判所は、その違憲という判断を踏まえて、具体的に、例えば損害賠償だったらどうするのかとか、細かい実定法上の規定の問題に移ってくるというふうになります。

○中村(哲)委員

 そのようなお話を伺っても、私は、この制度は現行憲法下で導入できるのだから、積極的に導入した方がいいんじゃないかという思いを強く持っております。

 先生にきょう来ていただいてお話を伺ったということに関しては、先ほども申しましたように非常に感動しているわけでございますけれども、どうか、きょう出席されている先生方も少ないですし、また聞いていらっしゃらない先生もたくさんいらっしゃるでしょうけれども、これは大きな国の流れを変える制度の変更になり得るんじゃないかということで、積極的に推進していただきたいと思います。

 この制度は、先ほども先生とお話させていただいたように、国会議員の機能をそぐという制度変更ではないわけです。国会議員が立法する場合の憲法の解釈権を縛るわけでもなく、裁判所の違憲審査の判断を迅速かつ多重的に、下級審と上級審とのダブルチェックも踏まえながら早急にやっていくという制度ですので、これは与野党超えて法案化していってもいいんではないかというふうな感じが私はしております。

 さて、話をまたもう少し卑近な例に引き直して考えたいと思うんですけれども、七十六条三項の裁判官の独立の問題でありまして、一般的に、違憲審査を下級審の裁判官がやると出世に影響すると言われておりますけれども、こういうことに対しては先生、いかがお考えでしょうか。

○畑尻参考人

 なかなか難しい問題ですけれども、確かにその点を指摘する研究者も多くはいます。ただし、実際問題としてそれがどうなのかというと、これはなかなか検証することが難しいと思われます。

 ただ、一つだけ言えることは、であるからこそ、つまり従来の制度でいうと、そういうふうな圧力がないかあるかはともかくとして、やりにくい状況にあるのであれば、こういう移送決定という形で、もう少し目立たないといいますか、下級裁判所の非常に積極的な判決が常にマスコミでトップで取り上げられる、それで一人二人が目立ってしまうということは少なくとも移送決定の場合にはないように思われます。それだけ数が多くなるということになりますと、違憲という下級裁判所の判断が必ずしも特異な例ではなくなりますと、特に違憲という判断をしたからといって、それが人事上どうなるという問題ではなくなるように考えております。

○中村(哲)委員

 そのお話を伺いますと、今も最高裁の判断とは違う判断を下級審はなかなかしづらいところがあると思うんですけれども、この制度を導入することによって、そのあたりの関係がどういうふうに変化するとお考えでしょうか。

○畑尻参考人

 先ほど詳しくは述べなかったんですけれども、最高裁判所の人事あるいは判例の拘束力の問題等で、下級裁判所がなかなか違憲判断が下せない、積極的な憲法判断が下せないという状況は確かにあるように思われます。

 ただ、一つ検討しなければいけないのは、先ほど消極的にならざるを得ないような理由の中に、それ以外にも下級裁判所の積極的な憲法判断を阻んでいる制度的な要因があるわけですから、それをまず解決する。まずというか、同時にと言っていいかもしれませんけれども。もしそういう判例の拘束力とか人事権の問題があるんだとすれば、同時に、今言ったようなそれ以外の消極的な要因を排除するということは、これは非常に重要なことであるように思われます。

 それと、例えば最高裁判所の上告裁判所としての裁判所と憲法裁判所としての裁判所が分かれますと、当然、いわゆる人事権とかの問題も分散するということが考えられますので、従来のような最高裁判所のいわば一元的なものから多元的なものへ移行するということで、あるかないかはともかくとして、そういった問題についてもある程度解決できるのではないかというふうに考えております。

○中村(哲)委員

 そうすると、人事の問題が非常に大きなウエートを占めてくるんじゃないかと思います。
 そして、先生のレジュメの最後のページにあるんですが、「九名の憲法裁判官は、裁判官任命諮問委員会の諮問にもとづき内閣が任命する。」と書いてあります。内閣の任命というのは七十九条で書いてありますから憲法上の規定だと思うんですけれども、この裁判官任命諮問委員会というのはどういう委員会だと考えればよろしいんでしょうか。

○畑尻参考人

 この機関については、現在の最高裁判所ができた当初、第一回目の構成に当たっては、内閣の中に諮問委員会というのを設けまして、そこの中には裁判官経験者であるとか、あるいは現職の裁判官であるとか、さまざまな形の委員が集まりまして、そこで検討したことを内閣に諮問をするというふうなことが第一回目はたしかとられていたと思います。それが、それ以降現在まで行われていないわけですけれども、私がイメージしましたのは、一番最初に現憲法のもとで行われていたような諮問委員会というシステムでございます。

○中村(哲)委員

 そうすると、内閣の中に設けられるということを考えればいいわけですね。そうすると、その諮問委員会の委員を選んでくるのはどこがやるのか。議院内閣制のもとで、与党から選ばれた内閣総理大臣のもとに構成される内閣が人事権を持っていると考えればいいのか、そのあたりのことをお教えください。

○畑尻参考人

 ただいまちょっと第一回目の、最高裁判所ができた当時の諮問委員会をイメージしてというふうに申しましたけれども、実際にそれをつくるという段階になりますと、それを内閣に設けるのか、あるいは内閣とは別の組織でやるのか、あるいはその委員をどのような形で任命するのかについては、これは工夫ができるように思われます。つまり、法律でさまざまな形の議論が可能です。

 ただし、委員先ほどもおっしゃったように、この諮問委員会の答申が内閣を法的に拘束するということになりますと、内閣が現憲法で持っている任命権というものと抵触するおそれがあります。ですから、それに抵触しない限りでは法律でさまざまな工夫が可能ではないかというように考えます。

○中村(哲)委員

 そこら辺の先生の具体的なイメージを聞かせていただいたらいいのではないかと思うんですけれども、具体的なイメージはおありになるでしょうか。

○畑尻参考人

 現在のところは、その点では持っておりません。

○中村(哲)委員

 私、政治的には、これは非常に大きな意味を持ってくるように感じます。
 ドイツの場合では、先ほど超党派的とおっしゃったんだと思うんですけれども、中立というのではなく、構成メンバーにいろいろな考え方の人がはまるような運営の仕方がなされていると思うんです。そういうふうなことをこの国がもし導入するのであれば、そういうことを担保できるようにしないといけないと思うんですけれども、ドイツの場合はそのあたりのところ、どのようにされているんでしょうか。

○畑尻参考人

 ドイツの場合ですと、基本的には裁判官を選出する母体は議会になります。連邦議会と連邦参議院。連邦議会と参議院では若干その手続は違うんですけれども、私の記憶で言いますと、連邦議会の方は、連邦議会議員の政党比で比例代表というふうな形で選出委員会をつくります。連邦参議院の方は、たしか総会みたいな形で全員で決めるということになります。いずれも三分の二という特別多数を必要としますので、極端な形で政党の支持が反映されるということはないように思っております。

 ただし、先ほど言いましたように、基本的には議会が選ぶということで、基本的にはどの党の推薦だということははっきりしております。ただ、現在の手続ですと、簡単に申しますと、議会の勢力範囲がほぼそのままの形で憲法裁判所を構成する裁判官の色合いにも反映するという意味で、そういう意味で超党派、非党派というよりは超党派の手続なんだということになると思います。

○中村(哲)委員

 ありがとうございました。終わらせていただきます。

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