2001年6月20日
第151回国会 衆議院 法務委員会

案件:裁判所の司法行政、法務行政及び検察行政に関する件(司法制度改革に関する諸問題)


質疑内容  「司法試験制度改革などについて

  司法制度改革審議会が、裁判を受けやすくするための制度改革や裁判官・検察官・弁護士の法曹養成についてなど、について意見書を提出し、法務委員会で意見書について集中審議が行なわれました。法学部在学中法律を勉強していたことから、特に法曹養成に興味があるので、質問させていただきました。

  現在、司法試験では、受験期間の短い受験生に2次試験の論文試験で合格優先枠を設けています。司法制度改革審議会の意見書では、2004年度にこの優先枠を廃止するとのことですが、それまで優先枠をどこがどのように決めるのかたずねました。というのも、司法試験管理委員会が、1996年にこの優先枠を200人で設けた後、全体の合格者数をだんだん増やしてきたので、私は、この優遇策はもはやあまり意味がないのでは、2004年をまたずに廃止すべきでは、と考えるからです。

 そもそも受験生の間では、この優先枠に対し「不公平だ」という声も根強くあるのです。法務省の回答は、審議会の意見書を尊重するとのことでした。今まで司法試験のおおよその合格者数や合格優先枠は、法曹三者(最高裁、法務省、日本弁護士連合会)の協議で決まっています。結局、意見書をもとに決めるのか法曹三者協議で決めるのか、はっきりとした回答はもらえませんでした。

 また、京都大学で恩師だった佐藤幸治会長に法学部教育のあり方についてたずねました。大学では、佐藤先生の憲法を受講していたのですが、大教室での講義では、正直言ってなかなか理解できませんでした。結局、法律の勉強は自助努力に委ねられてしまっており、四苦八苦している学生さんが多いのが実状です。法曹養成という役割については、今までの大学の法学部教育は不十分で反省が必要だということを訴えました。


会議録抜粋

○中村(哲)委員

 民主党・無所属クラブの中村哲治です。

 審議会会長の佐藤幸治先生には、京都大学の法学部で講義を受けさせていただきました。憲法の勉強もこの先生の教科書を使って勉強させていただきました。国会で佐藤先生に質問させていただけることに大変喜びを感じております。よろしくお願いいたします。

 さて、持ち時間が短いですので、早速質問に入ります。私も、枝野委員に引き続きまして、法曹養成についてお聞きしたいと思います。
 まず、司法試験の改革について法務大臣にお聞きしたいと思います。審議会の意見書の七十二ページと七十四ページで、二〇〇三年まで現在の若年者優遇策、いわゆる丙案が維持されるということです。

 御存じのない方に簡単に説明いたしますと、丙案というのは、マークシート式の短答式に合格した後に受ける論文試験の選考に際して、例えば合格者がその年に一千名であったときに、下位の二百名の人を、受験開始から三年内の人から合格させるというものです。つまり、受験開始から四年以上たっている者は、八百一番でも不合格になって、受験開始から三年内の人は、千五百番程度でも合格するという制度でございます。

 この丙案の制度については、司法試験の受験生の間から、不公平だという声が強くあります。例えば、受験開始から三年内で受かった本当に実力のある人たちがいたとしても、あいつは丙案の枠にいるから受かったのだと言われてしまう、そういうふうな弊害も起きています。だから私は、早期に丙案はなくすべきだと考えておりました。

 事前に事務方の方から説明を受けましたら、この三年というのも、いわゆる期待権、今受けている人が丙案を前提にして受けているのだから、ことしを含めて三年内は維持しないといけないということでした。この点について議論させていただこうと思います。

 そもそも丙案というのは、一九九〇年の法曹三者の基本的合意の中で、司法制度の改革の一環として提言されたものです。合格者を当時の五百名から、平成三年に六百人、平成五年に七百人とふやす中で、受験期間の少ない者の全合格者に占める割合が一定割合に達しない場合に、平成八年からこの丙案を実施するというものでした。実際には、受験期間の少ない者の割合が一定割合に達しなかったということで、平成八年からこの丙案が実施されているということでございます。

 その後、平成十年に九百人にふえ、平成十一年に合格者は一千名にふえました。合格者数がふえるにつれ、丙案による優遇というものは、そのもともとの制度趣旨に照らせば余り意味をもたらさなくなったのではないかと私は思っております。

 しかし、理由は明らかにされないまま、丙案の制度は維持されました。また、全体の合格者に占める丙案枠の比率が変えられることで、丙案による合格者というのは同じく二百名程度で推移している、そういうふうな状況があります。

 審議会の意見書では、二〇〇二年には合格者数を一千二百名にするということです。手続的には、昭和四十五年の裁判所法改正案の附帯決議によって、司法制度の改革には法曹三者の協議が調わなくてはならないということが決められておりますので、従来からの方針ではそうなるということだと思います。

 しかし同時に、意見書の五十八ページには、「司法試験合格者数を法曹三者間の協議で決定することを当然とするかのごとき発想は既に過去のもの」であるというふうに書かれております。

 そこで、法務大臣にお聞きいたします。
 今後、合格者数はだれがどのように決めていくのでしょうか。
    〔委員長退席、奥谷委員長代理着席〕

○森山国務大臣

 司法制度改革審議会の意見書では、司法試験の合格者数を、今お話がございましたように、平成十四年は千二百人程度、十六年には千五百人程度に、さらに二十二年ごろには三千人程度とするということを目指すべきであると述べておりますが、今後、この審議会の意見書を踏まえまして、できるだけ速やかに審議会で示された合格者数を達成することを目標にいたしまして修習体制の整備などを進めてまいるわけでございまして、司法試験合格者数を含めて、司法試験のあり方についても今後さらに検討していきたいというふうに思います。

 それから、最初にお話がございました丙案ということでございますが、おっしゃいましたとおり、現行司法試験における合格枠制、いわゆる丙案の廃止につきましては、このたびの司法制度改革審議会の意見におきまして、合格者数が千五百人に達する平成十六年度から廃止すべきであるとされておりますので、司法試験管理委員会といたしましては、この審議会の意見を尊重いたしまして、適切に対応していただくものと考えております。

 なお、直ちに廃止するべきであるという御意見につきましては、法務省といたしましては、合格枠制を導入した趣旨に照らしましても、現時点においてはその必要性はなくなっていないと思いますし、また、現行司法試験を前提に勉強している受験生に対する周知期間といった点をも考慮いたしますと、審議会が示した平成十六年をさらに前倒しすることは困難であると考えております。

○中村(哲)委員

 今後の合格者数はだれがどうやって決めていくのでしょうかということに関して、ちょっとはっきり聞けなかったので、もう一度それを確認させていただきたいということと、合格者数が決まったというときに、丙案枠を今度何割にするかということが議論されることになります。今までどおり、慣習に従って二百名程度にするように枠を決めるのか、そのこともどこで決めるのかということを私は知りたいなと思っております。

 そもそも、また、千五百名にすると、丙案は二〇〇四年にはなくしていいと七十四ページに書いてあるわけですよね。私は、もう丙案は時代的な、実質的な理由がなくなっているのだと思うのですよ。むしろ、丙案が導入されてから合格者の質が下がった、試験の内容とかそういう司法試験の制度のあり方とも関係しているのでしょうけれども、そういうふうに言われている中で、やはり来年からでも丙案はなくしていった方がいいのじゃないかと思うのですけれども、いかがでしょうか。

○森山国務大臣

 先ほども申し上げましたように、司法制度改革審議会の最終意見の中でお示しいただいたことを着実に実行していくということが一番最優先でございまして、その中でお示しになった平成十六年まではこのまま続けていきたい、つまり、千五百人になるまではという意味でございます。ですから、当面はそのようなことで努力をいたしてまいります。

 また、合格者のレベルが下がったのではないかという御心配をおっしゃっておりましたけれども、結果的に見ますと、得点の差、例えば無制限で合格された方とそれからいわゆる丙案のために合格した方との差というのは、一科目当たり〇・六三という非常にわずかなものでございまして、たくさんの方が一定の成績のところに固まっていらっしゃるということが察せられるわけでございまして、そんなに大きな違いはございません。

○中村(哲)委員

 問いに答えてください。どういう手続で決めていくのかという点が一点と、もう一点は、とすれば、二〇〇四年に丙案をなくすという理由もないわけですよね。二〇〇四年になくすと言っているのだから、もう来年からなくしたっていいのじゃないかと私は思うのですけれども、実質的な理由をお聞きしているのです。その二点について。

○森山国務大臣

 先ほども申し上げましたように、司法制度改革審議会の答申の中にございます千五百人になる予定の平成十六年ということを申し上げたわけですし、その後どのようにその人数を決めていくのかというお話につきましては、司法試験管理委員会が決定していくということになっております。

○中村(哲)委員

 今までのように法曹三者では決めないということですね。そこを聞いているわけですよ。でも、もう実質的な答弁がいただけないようですので。何遍聞いても同じですよ、それだったら。法曹三者で決めないということですね。

 それでは、もう次へ行きます。佐藤先生に質問したかったので、あと時間も短くなってしまって本当に残念なんですけれども。

 私も京都大学法学部に行って、大教室で憲法を勉強して、正直、先生に教えていただいた大学二年生のときに憲法を理解できなかったのですね。大学一年生のときから五月会とかも入って憲法も勉強していて、やったのですけれども、結局、自分で必死で先生のこの基本書を読み込んで、司法試験の択一試験の問題とかを解きながら、あと司法試験の予備校に行っている友達からそういうふうなことを教えてもらったりして、そういうことをやってやっと憲法をある程度理解できたというのが自分の正直な感想なんですね。

 受験予備校のことで、先生先ほど、これからのローヤーに必要なことは考えることだと。私は、京都大学法学部のあの大教室での講義を受けて、考えることというのはなかなか学べなかったなと思うのです。
 私自身は、三回生の後半からやっとゼミが始まりまして、私は民法の辻先生のゼミに参加していたのですけれども、ゼミに参加できるのも一科目だけですよね。それも三年生の後半から四年生の前半だという。もう今の大学生なんか就職活動真っ盛りで、就職活動でゼミを休んでしまうような、そういうこともあるわけで、逆に言うと、一年生からもっとゼミ形式みたいな形で考え方を鍛えるような教育をしなくてはいけなかったのじゃないか、京都大学法学部においてでも。

 だから、先生のおっしゃっている理想と、現実になされてきた、私自身が実感してきた京都大学法学部の教育、もちろん、先生は専修コースの導入とか、すごく改革に取り組まれていることは存じ上げているのですけれども、やはり枝野議員が申しましたように、実務家を養成できなかったという事実、それに対して真摯な反省というのは、京都大学法学部においても問われなくてはいけなかったなと私は実感として思うのですけれども、その点についてお聞きいたします。

○佐藤参考人

 きょうお会いできて、大変光栄に存じます。しかも、私の本を読んでいただいている、本当にありがたく思います。

 おっしゃる点は全くごもっともでありまして、大教室で一方的にしゃべるいわゆる講義形式、これは多人数が入ってきているということでやむを得ない点はあるのですけれども、そういう多人数のところで一方的に、しかも解釈論の細かなところについてしゃべって理解せよというのが、これは教師からいえば虫のいい話であるというように思わざるを得ません。

 変えたらいいじゃないかと言われましても、それは、今までのシステムは、法学部というのはプロを養成するところでもない。法学部は、御承知のように、四万七千人の卒業生がいます。いろいろなところに参ります。法曹になるのはごく一部であります。そうすると、どこに焦点を当ててどうやって教えてとかというのは非常に難しい課題がありまして、弁明になりますけれども、ややそういうところがあります。

 そこで、今までのやり方ではだめだ、学部の方は、もっと自分で考え、自分の好きな、自分の興味を持ったところを中心に勉強して、そして自分として将来どういう職業を選ぶか、教養を身につけ、自己を発見する、そういう場としてあるべきで、そして、そこで自分は法曹になりたいという人は法曹としてふさわしい教育の仕方、それは少人数教育です、ゼミあるいは少人数教育で、ああでもない、こうでもないという議論を闘わす、そういう場として法科大学院を考える必要があるのじゃないか。

 これは、先ほど井村先生の個人名を挙げてあれですけれども、井村先生もよく、医学部でもそうなんだと。医者になるとき、一番難しいから医学部をとりあえず受けるという学生も少なからずいる。医者としていかがかと思う人もいる。だから、もし法科大学院がうまくいったら、医学部についても、やはり教養を身につけて、そして自分が医者になりたいという人は医学部に、メディカルスクールに入ってくるような、そういうシステムを理想としては考えたいんだということを井村先生もおっしゃっておりましたけれども、まさに、プロを教育するというのは、そういう踊り場といいますか、そこでじっくり考えて、そして古典なら古典に興味を持って勉強する、そういう場があって、そしてプロとして入ってくる、そういうシステムをこれから考える必要があるのじゃないか。ちょっと長くなりましたけれども。
    〔奥谷委員長代理退席、委員長着席〕

○中村(哲)委員

 先生、だからこそ、枝野さんが申しましたように、教育のあり方、鍛え方というのが予備校が今すぐれているということは認識しないといけないと思うのです。

 私は、先生の講義を聞いて大学の講義を中心に勉強しましたけれども、結局司法試験に受かりませんでした。そうじゃなくて、大学の授業に一年生から出なくて、予備校に行った人が受かっていっています。そういうふうなことを真摯に考えていただかないと、若者は本当に、大学の先生の言葉を信じて勉強した人はばかを見ます。
 その点だけ確認させていただきまして、時間がなくなりましたので、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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